祝、マンティコア・レーベルの発売の巻
プログレにどっぷりはまった「あなた」なら、もうご存じの通り、ELPで有名なマンティコア・レーベルの作品が、20ビット盤で一挙再発されました。それを祝して、今回はマンティコア・レーベルの特集ということでお送りします。
まずマンティコア・レーベルと言えば、我々オールド・プログレ・ファンになじみ深いのが何と言ってもELPです。(とは言っても、実際ELPの作品はこれまでも再発されていたので、今回の祝いとは関係ないのですけどね。)ELP=エマーソン・レイク&パーマーはプログレを代表するスーパー・グループで、ナイスのエマーソン(Ky)、キング・クリムゾンのグレッグ・レイク(B、Vo)、アトミック・ルースターのカール・パーマー(Dr)という当時ロック界を代表するスーパースター3人によって結成され、注目を浴びたバンドだったのです。
ボクが最初にELPを知ったのは「ナットロッカー」という曲で、当時日本でも大ヒットしたのは中3の冬だったと思います。こうして考えてみると、ELPが結成されたのはキング・クリムゾンが1stアルバムを発表した後だった訳で、プログレをリアルタイムで聴くようになったのは、その直後からということになるんでしょうね。(この辺、記憶がとってもあいまいです。)
この「ナットロッカー」ですけど、ELPではセカンドとして発売されたライブ「展覧会の絵」のアンコール曲としてアルバム収録されています。その彼らがオリジナルアルバムとしては4枚目となる傑作「恐怖の頭脳改革」の直前(確かそうだったと思う)に設立したのがマンティコア・レーベルなのでした。マンティコア・レーベルは以後のELPのアルバムをリリースするという本来の目的の他に、新人バンドをサポートするという機能を持っていたことになります。
当時マンティコア・レーベルから発売されたアルバム数は、決して多いとはいえなかったのですが、発売されたアルバムは我々プログレ・マニアにとって決して無視できないものでした。少なくともボクには・・・。それというのもマンティコアからリリースされたアルバムにPFM(プレミアータ・フォルネリア・マルコーニ)というバンドの「幻の映像」があったからです。
PFMというバンド名は、ボクにとって本当に特別なものです。ボクにとって特別なバンドはいくつかあります。それは例えば「キングクリムゾン」だったり「イエス」だったり「ジェネシス」だったりしますし、「ルネッサンス」や「ジェントル・ジァイアント」や「フォーカス」も、そこに加えても良いかも知れません。しかしPFMは中でも「キングクリムゾン」と並んで別格です。「幻の映像」を聴いた時のショックは今も忘れられない・・・それほど「幻の映像」は凄いアルバムでした。同アルバムの1曲目「人生は川のようなもの」という曲の何と清らかで美しく、そしてなんと変化に富んでいることでしょう。室内楽のような導入部を初めて聴いた時PFMが「タダ者ではない」ことに、すぐに気がつきましたし、誰もが気がつくでしょう。というのもそのゆったりしたメロディを演奏する各楽器の奏でる音の緊張感たるや、クラシカルでありながら「何かが起きる」予感に満たされているのです。そしてその予感は的中します。美しい曲相は少しも止まらず、次々と変化していくのです。変化に富んだ様を万華鏡の様にという言い回しで表しますが、まったくその通り、いやそれ以上の変化を遂げながらクライマックスを迎えます。10分に満たない演奏時間が信じられない程の濃さ!(ボクのゲームがサービス精神タップリに作られる<本人はそう思っている>のは、PFMとかキングクリムゾンの表現者としての姿勢に影響を受けているところが多分にあります。)そしてメロトロンの使用法も見事!クライマックスで壮大に鳴らされる様はキングクリムゾンと双璧を成すといっても良いでしょう。天空に突き抜ける快感を味わえます。これまでの人生で最高峰を1曲だけ選べと言われたらクリムゾンの「エピタフ」、イエスの「危機」、ジェネシスの「サパーズ・レディ」、ルネッサンスの「燃ゆる灰」等と共(どうしても心に残る1曲は70年代に聴いたものの思い入れが強すぎるので、その中から選ぶ結果になってしまいます)に最有力の1曲です。
この1曲を聴くためだけでも「幻の映像」は価値あるアルバムなのに、このアルバムはまだまだ手を緩めません。それに続く「セレブレーション」表題曲「幻の映像」「オールドレイン」と全くリスナーの虚をつきながら、しかもどの曲も美しく完璧な仕上がりです。A面を初めて聴き終えたあの時、ボクは全くの放心状態でした。B面を聴く時、手が震えた程です。うっすら涙ぐんでいたかも知れません。それほどの感動に酔いしれたのでした。
その感動のPFM「幻の映像」をリリースしたのがマンティコア・レーベルという訳です。(ハア、何だか、説明に力を使っちゃったなあ・・・。)しかしこのマンティコア・レーベルは既に解散したのか、誰かに売り渡したかで、ELPのメンバーの手にはなく、そのおかげでCD再発ラッシュの昨今にも再発されることはありませんでした。実はPFMの1st「幻の映像」と2nd「蘇る世界(でもこれはイタリア盤で1曲少ない)」はキングレコードから発売されていましたがライブ「ライブ・クック」と3rd「チョコレートキングス」は国内発売されていませんでした。
ところが今回、それらがリマスター&20ビット盤(簡単に言うととっても音が良くなった)で再発されたのです。これまで、輸入盤も含めてPFMのアルバムは買い揃えてありましたが、やはりリマスター(かなり音がよいとの情報有り)盤でもありますし、あらためて買い直してみたのですが、これが大当たり!音が非常に良く、しかも細かな音まで鮮明に聞こえるじゃありませんか!あなた!
今まで今一だった2ndやチョコレートキングスが「とっても良かったんだ」と思えるほど違って聞こえるんです。ところがさらにライブは圧巻!「やっぱりライブはやっぱりリラックスしちゃって、オリジナルアルバムの緊張感がないんだよねぇ」と諦めていたのが信じられないほど、ダイナミックにしてリリカル!PFMはライブでも本当に素晴らしいバンドであることが再認識させられました。あなたもダマされたと思って、まず「幻の映像」から聴いてみて下さい。
ちなみに、同時にアトミックルースター「メイドイン・イングランド」だとか、ストレイドッグだとか、ユーライア・ヒープだとかも発売されてますけど、まあこの辺はお好みで・・・。肝心なのはバンコの「イタリアの輝きバンコ登場」でしょう。当時ボクはイプー(日本版「ミラノの映像」を発売と同時に買いましたけど、あの当時は良く聴いた割に最大級の評価は与えていませんでした。あの当時に「パルシファル(凄いアルバムで、手放しに進められます)」でも聴いてれば全く評価は変わっていたでしょうね)オルメ等のイタリアバンドは知っていたのですが、このバンコだけは知りませんでした。その当時に存在を知らなかったのが残念なほど素晴らしいバンドです。(97年、奇跡的に来日公演があり、ライブを聴くことができましたが、本当に感動の嵐でした。)バンコもイタリア盤はキングから発売されていて、どれも素晴らしいアルバムなんですけど、マンティコア盤は初のCD化!大注目ですぞ!それと、ピート・シンフィールド(初期キングクリムゾンの第5のメンバーと言われ作詞を担当していた人ですが、当時のクリムゾンのアルバムコンセプト大きく関わっていたと思われます)のアルバム「スティル」も同時発売されました。興味のある人は聴いてみて下さい。(ボクは当時、キングクリムゾンを期待してしまったので、印象としては良いとは言えません。そういう思い入れ無しに聴く分には、悪くないアルバムなのかなと思ったりします。)
それではまた、次回、プログレの部屋で再会しましょう。
・プログレ(インデックスの方に載せます。「プログレとは?」てな感じで。)
プログレとはプログレッシブ=進歩的ということで、音楽では1969年から1975年ぐらいまでの主にブリティッシュ・ロックを称して、プログレと呼ばれた。プログレッシブ・ロックの概念とは「あらゆる既存の音楽を融合し、真に新しい音楽を創造する」ことだったのですが、実際には特にクラシックやジャズを取り込んだというのが実状だった。プログレは特に知識階級に訴求したこともあり、学術派のロックということもできたが、それだけに当時は理屈っぽい音楽として賛否両論があった。プログレの進化の歴史は、シンセサイザー等電子楽器の進化の歴史でもあり、アナログシンセサイザーのメロトロンやELPのキース・エマーソンが使用し有名を馳せたムーグ等、当時のプログレとは切っても切れない縁がある。プログレッシブロックの衰退は、それらの進歩的な電子楽器の廉価化や一般音楽への普及が大きな原因のひとつと言われていて、実際当時のプログレの表現はポップス等の一般音楽へと浸透していくことで、その役割を失ったとされている。
・20ビット盤
元々音楽を再生するレコードはアナログであった。CDは確かに便利であり、ノイズも少ない面ではレコードを上回っているが、音楽を聴くという意味でマニアに言わせると、CDよりもレコードの方が音楽が豊かなのである。(というが、CDが決して悪いとは思わない。ボクは音楽を聴くということだけで言えば、盤をクリーンにする等の余分なことが省けて有り難い。)しかし一般的なCDのデータは16ビットとなっていて、高音部と低音部がカットされている(らしい。)レコードの場合はアナログであるから、理論的に言えば無限大の音が鳴っていることになり、確かに失われたデータ分だけ音質は下がっていることになる。それを少しでも補うのが高音質CDということになる。少しでも再生できる音のデータ量が増える方が、音質もオリジナルに近付くからである。実際、再生機は24ビットのデータ量を再生可能ということなので、それだけクオリティが高くなるのである。
・何かが起きる PFMの項、クラシカルでありながら「何かが起きる」予感に…
ボクの場合、音楽を聴いていて退屈なのは次の展開がわかってしまうことである。ストーリーの展開が読めてしまうミステリーはつまらないように、先がわかる音楽はつまらない。逆に、裏を掻いてくるミステリーが面白いのは工夫が凝らされているからで、そういうものを体験している時は息を潜めて集中する。そういう作品はまた、そういうストーリー展開への工夫があるもので、答えがわかっていても何度も楽しめてしまう。ボクが面白いと思う音楽は「知らず知らず」に集中してしまう音楽だし、展開の妙を楽しめるモノである。音楽自体の構成が素晴らしいと思える音楽は、それほど多くないのだけど、そうしたモノに出会った時「本当の幸せ」を感じるのである。もちろん、それを表現するための高い演奏能力も必要である。それらの全てを満足させてくれるのがPFMの音楽だったのである。
・メロトロン
プログレッシブロックを演奏するための3種の神器と言って良い。その当時、特にストリングス系の音を出すために「絶対欠かせない楽器」であり、その音色もまたストリングスとは一線を画した独特のものであった。アナログ・シンセとか呼ばれていたが、中身は録音されたテープが幾重にも釣り下がっていて、それが再生機のヘッドにこすられて音を奏でていたという前時代的な設計がなされていた(らしい)。
・クリムゾンの「エピタフ」
ストリングス系メロトロンを使ったプログレッシブロックの最高峰。アルバム・クリムゾン・キングの宮殿を初めて聴いた時、A面ラストのこの曲、本当に感動して聴いたのは今でも忘れない。一体何人が、音楽を聴いて、頬が硬直し、涙があふれんばかりの感動を味わったことがあるだろう。それ以降、多くのフォロワーがこの曲に影響された音楽を作っているが、未だにこの曲を越えたモノを知らない。
・イエスの「危機」
イエスと言えば「ロンリー・ハート」というキミは、イエスの本質を知らない。ボクにとってイエスといえば「危機」である。アルバム危機(英題CLOSE TO THE EGE)のA面全てを費やした大作にして、イエスの名を不同にした1曲。発売されて20年になろうかというのに、その完璧な曲構成といい、卓越した演奏力といい、プログレッシブロックの魅力が余すところ無く表現されている。理屈っぽかろうと、複雑過ぎようが、どうでも良い。余りに屈折したリズムで踊れない?ボクはノリノリで聴けるぞ!
・ジェネシスの「サパーズ・レディ」
ジェネシスがポップになる前、フィル・コリンズじゃなくてピーター・ガブリエルがフロントマン(=リード・ボーカル)だった頃、アルバム・フォックストロットでB面全てを費やした大作にして超名曲。20分以上に渡る大作にして、リスナーを飽きさせることを知らない構成力には、ただただ頭が下がる思いだ。いったい、どれだけの時間を使って作曲し、演奏したのかと不思議に思ってしまうほど、素晴らしい仕上がりを示すジェネシス屈指の名曲である。
・ルネッサンスの「燃ゆる灰」
ルネッサンスというバンドは、当時クラシカルロックとして一般的な人気が高く、かの「カーネギーホール」でもコンサートを開いたほどだ。(カーネギーホールでコンサートを行うなんて、最近のことは良く知らんけど、当時はとんでもないことだった。)その「カーネギーホール」のライブアルバムにも収録された「燃ゆる灰」は、ルネッサンスのセカンドアルバムに収録され、その後の人気を不動にした一曲である。アコースティックピアノの調べが美しい、そのクラシカルロックの神髄とも言うべき煌めきは、今でも少しも色あせることはない。
・ダイナミックにしてリリカル
押しと引き、というか・・・躍動感と繊細さが見事に同居していることを指してると思って・・・。