Apr. 30, 2003  


●ニュートロルス/アトミックシステム

 ボクがニュートロルスの中で最も好きな「アトミックシステム」の再発ですね。このアルバムは日本盤に「禿山の一夜」が入っていることもありましたし、シンフォニックだという風評もあったものですから、どうしても欲しいと93年当時に探し回った記憶があります。同作は3200円の時代に発売されて以来、再発されていない稀少盤でしたし、どれだけ探したかは忘れられません。

 そういうタイトルって幾つもありますね。最近手に入れたブレインチャイルドの「ヒーリング・オブ・ザ・ルナティック・オウル」なんかはその典型です。ボクはこのアルバム、プログレを再開した初期(93年から94年頃)にディスクユニオンの廃盤セールで一度手に取っているのです。ところがその時、ボクの手には30枚以上の廃盤が握られていたでしょうか……。この頃にしてはこのアルバム、それほど高いプレミアがついてはいませんでした。「買っても良いかなあ」と思ったのは、リーズナブルな市場価格が魅力的だったことを白状しましょう。だけどブリティッシュロック集成でもっと褒めているアルバムは山ほど有りましたし、購入する順序としては優先順位を上げられなかったのでした。結局40枚ほどにもなってしまった廃盤の束から、1枚戻し2枚戻ししている間に同作も戻される1枚になってしまったワケです。しかしユニオンから戻りかけたところでブレインチャイルドが気になりだして……胸騒ぎというんでしょうか?やっぱり「買っておこう」と引き返してみたのですが、もうブレインチャイルドはありませんでした。そして最近手に入れるまで2度と出会うこともなかったという……苦い経験があります。

 やっと手に入れたアトミック・システムは結構プレミアがついた帯なしの中古盤でしたけど、凄く嬉しかった記憶があります。ボクは出来る限り購入順に聴くようにしているのは前に書いた通りですけど、やっと聴く順番が来て「期待に違わなかったのが確認出来た」時には満足感に満たされました。しかしそれはすぐに悪夢へと変わりました。再発のリリースがあったのです。こういう経験は読者の皆さんも大なり小なりお持ちでしょうけど、腰から力が抜けるというか……寂しいものですよね。やっと見つけて手を入れたということや、プレミア盤だったということもあるのですが、ボクだけが持っている的な優越感もコレクターの楽しみの1つでしょ?それが崩れてしまうのも悲しいことです。「あの努力は、何だったのか?」と情けなくなる気も察して下さい……それがボクのアトミックシステムなのです。

 前述のようなわけで、同作は「UT」のメンバーであるニコ・ジャンニ・フランコ・マウリツィオというスカルツィ以外の4人が脱退した後に作られたアルバムで、これじゃイビスこそがニュートロルスじゃんという掟破りな編成で作られたとも言えるアルバムなのです。同作の日本盤ライナーによるとメンバーはリーダーのヴィットリオ・ディ・スカルツィ(ピアノ、ギター、フルート、アープ・シンセ、ヴォーカル)、ジョルジョ・ダダモ(ベース)、トゥリオ・ディ・ピスコーポ(ドラム)、ラマサンディラン・ソムスンダラン(パーカッション)、レナート・ロセット(ピアノ、ハモンドオルガン、ムーグ、メロトロン、エレピ)、ジョルジョ・バイオッコ(テナー・サックス、フルート、エミネント)+コーラスの女性2人という構成なのですが、どこまでが正規メンバーで、どこからがゲストなのか?それとも全員がメンバーなのかがよくわかりません。ちなみに、ジョルジョ・ダダモは結成当時のメンバーでしたが、その後確か一時期Nuova Ideaというバンドに在籍し活躍していたはずで、同バンドの2nd「ミスター.Tジョーンズ(だったと思います)」は名作とされています。(同作のリイシュー盤CD……メローだったかビニール・マジックだったか……はブート盤のように音が悪いので良さが伝わり難いですが、コンセプトアルバムと言うこともあって、確かに同バンドのアルバム中では一番良さげな気がします。)

 さて肝心の内容ですが、ニコ組の「イビス」とアトミックシステムが似たようなというニュアンスで書いていたのですが、それはあくまでも「これまでのトロルスとは思えないほどシンフォニックに接近した」という意味であって、ニコ組が「ブリティッシュのシンフォ」を目指したとすると、スカルツィは「イタリアンなシンフォ」を目指した音作りになっていると言って良いと思います。アルバムの冒頭からハープシコードのリズミカルなアルペジオ的な奏法が全面に流れ、シンセのファンファーレが多重的に鳴り響き、チェロ(メロトロンじゃないと思うけど)がリードを取るなど、とてもバロック的なクラシカルなサウンドです。曲の間奏部の女声スキャットの手法はブロンゾの「YS」のスキャットっぽくもあるですがあれほど艶めかしくなかったりと……全体的に格調の高いプロダクションです。バンド一丸となったクライマックスでは、ドラムの入り方といい、メロトロンの重ね方といい、どこかルネッサンスを想起させます。古いアルバム(みんな古いんですけど、CDのリリースが昔だという意味です)だから音のエッジがシャープじゃないのですが、こういう音楽にはむしろ豊かさとして聴こえてしまうから不思議です。
 2曲目はハモンドをパイプオルガン風に鳴らしておいて、ドライブするベースと不協和的なコード進行がまるでPFM風です。この曲はPFMほどではないものの結構入り組んだ構成を持っていて、ある意味では典型的なイタリアン・シンフォ曲。何度も登場するテーマ的なコード進行の間奏部で歪んだサックスが暴れ回る所なんかは、ジャズを聴くようになった今となっては珍しくありませんが、やっぱりプログレッシャーには気持ちいいと思います。A面のラストはゆったりとしたメロディーラインのボーカル曲なんですが、女声のコーラスが前半を盛り上げていきます。そしてアコースティック・ピアノの間奏部は、メロトロンとチェロとが加わって、とてもクラシカルに格調高くボーカル部へと橋渡しします。4分半位で終わりかなあ……と思っていると、エマーソン風のアコースティック・ピアノとドライブするベースとドラムとがまるでELPの「石を取れ」風なアレンジで聴かせてくれて……またテーマのボーカル部へと戻って終わるまでの8分半を全く飽きさせません。
 そしてプログレッシャー大好きの「禿げ山の一夜」です。これはだいたい、どんなバンドがやってもこんな感じなんですけど、昼間部がモダンな感じにアレンジするのが当時の共通のように感じます。有名なフレーズの始まりは、クラシックを踏襲しないわけにもいかないし……ということなんでしょう。出来れば、3分少々なんて言わないで、もっと長めにやって欲しかったですね。B面もやはり典型的なイタリアのクラシカルなシンフォ・プログレを展開していて楽しめます。まだ、未入手のプログレッシャーは必携です。

 なんて書いていたら、同シリーズが発売されてしまいました。ということで、急遽比較試聴も敢行してみました。(はあー、無謀だなあ……。)同作のリマスター盤はジャケットが紙ジャケの変形ものですので、入手した時の満足感はそれだけで非常にたかいものになっています。(写真参照。)見開きの真ん中にシングルジャケットがついたような非常に凝った作りなので、手にする前は「変形って言うだけで300円も高いのは……」と思っていたのですが、「これだけの変形加減じゃ仕方ないないかもな」と納得させられます。しかし盤の方を聴くと、「前のCDは何だったの?」と思うほど細部まで聴こえてくるのに納得します。キングの日本盤ではハープシコードが早いアルペジオを繰り返した時耳を凝らさないときこえなかったドラムが、しっかり分離してリズムを刻みます。そのくせ、例えばソニーのDSDマスタリングのようにHiFi(数値特性)ばかり意識したような音になっていないので、エッジが立ち過ぎていないためにとても柔らかい音作りです。敢えて言えば、SACDのようなアナログを意識したようなサウンドです。DSDやSBM、ビクターのK2スーパービットマッピングは、とてもエッジが立ったサウンドが「いかにも最先端」な音作りを聴かせてくれますけど、アナログで聴けたサウンドを愛するリスナーにとっては硬質過ぎるという指摘もありました。ボクは「アナログと違う」というのを全面否定する気はありません。イエスやELPのK2マスターは、単にマスターからトランスポートしたような初期のCDに比べて明らかにサウンド面で優れていたと思うからです。しかし、最近聴き始めたSACDのようなサウンドも「悪くないじゃん」という風に思えたりします。音の分離度は上がっていますし、アナログ的な豊かなサウンドは長時間のリスニングにも疲れないからです。ただ言えるのは、リマスタリングに慣れてきた耳には、CD用にリマスタリングされていないソースはきつくなってきたということです。出来る限り多くの情報を聴き分けられるようなサウンドは有り難いです。(そのために何度も買い換えるのは、トホホ……ですけどね。)

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