松尾さん お便りありがとう!

茶:松尾さん
黒:ヒロ高橋

これはかなり前に頂いたお便りで、今頃のご返事というのも恐縮なんですけど……。松尾さんという学生の方からのメイルです。

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 高橋さん、こんにちわ。私は学生をやっております松尾という者です。今まで読んでいるだけでしたが初メールを送らせていただきます。つたなく、かつ長い文章ではありますが、最後まで読んでいただければ幸いです。

こんにちは。長文はボクの専売特許のようなもので全然気になりませんよ。最後まで読ませていただきます。

 僕は人生経験20年、プログレ暦(プログ暦?)約4年のイージープログレッシャーです。ちなみにクラシックギターとベースを少しかじっております。こんな僕とプログレの出会いを語る時に欠かせない存在なのが高橋御兄弟です。今回はそのことを書かせて頂きます。
 4〜5年前にその頃愛読していた某ゲーム雑誌F通において、ゲームメーカーの特集記事があり、そのときに確か高橋ヒロ(すいません、もしかしたら弟さんだったかも)さんのある一日を日記形式で書いていたものがありました。その日記の中にプログレという文字が出てきて、その当時洋楽をまったく知らない私は「?」となりました。



プログレとの出会いがF通のボクの日記のような文章だったのですか!そりゃ、ゲーム雑誌にそんな単語が出てきたってわかりませんよね。4年前というと……97年頃ですか……当時はボク、何を聞いたたのかなあ。多分、一通りのプログレのラインナップが揃って、現在進行形のバンドを捜していた時期だったのでしょうかね。そろそろ、クリムゾンの紙ジャケや、ELPの紙ジャケなんかが始まった頃かも知れませんね。


 それからしばらく経ったある日、唐突に「洋楽を聞こう! 」と思いました。が、CDショップに行ったところで、知り合いに洋楽に詳しい者がいない僕にとって洋楽に関する情報は無いに等しいものであり、何を買えばいいのかさっぱりでした。そんな僕の脳裏をふとよぎったのが、以前読んだ高橋さんの日記の中に出てきたプログレという言葉でした。僕の記憶が正しければ高橋さんはそのときに「好きなミュージシャンは? 」という質問に対して「キングクリムゾン」と答えていたと思います。
 で、それをすぐ買いました(笑)。今思えば、初めての洋楽がプログレでクリムゾンというのはハードだったなあ、思います(笑)。その時はまず1stアルバムから買おうと思い、「クリムゾンキングの宮殿」のDEFINITIVE EDITIONを買いました。



そうなんですよね。本気になって音楽を聴こうと思った時、何を聴いたらよいのかを示唆してくれる文献らしきモノってホントにないですよね。まあ、ゲームもそうなんですけどね。例えば唐突に「ゲームがやりたいな」となった時だって同じですよね。ボクはまずスーパーマリオ辺りを遊んでもらって、ゲームの本質的な面白さを知ってもらってから次に進んでもらいたいのです。間違っても、「映像系のものとか」からは遊んで欲しくないです。だって、それがゲームだと思われたら「ゲームって、映像にゲームブックみたいな分岐がついてるものなのね」となってしまうでしょ? 本来ゲームの面白さって、コントローラによって画面の中の「何か」を操作し、疑似体験できる面白さのはずなんです。ゲームの王道は、間違っても「静的」なものではないはずなんです。なのに出会いによっては、間違った認識をしてしまう可能性がありますよね。だから最初の出会いはとても重要なんですよね。これは音楽も同じです。音楽にとって重要と感じるモノは人それぞれだから、押しつけるつもりは毛頭ありません。何を好きになっても本人の自由です。しかし間違った出会いはして欲しくないのです。松尾さんの洋楽とのはじめての出会いがクリムゾンというのも、もの凄い話であるということには否定できません。(汗! )ボクの場合は、洋楽を意識しだしたのはやはりエルビスとかビートルズだったような気がします。本来なら、ここから米国ものへ行くのが普通の流れなのかも知れませんけど、何故かブリティッシュだったわけです。カーペンターズは好きだったけど、他の米国モノはハートに響かなかったんですね。あまり国を気にして聴いていたわけではなかったのに、ブリティッシュロックがフィットしてしまったのでしょう。そしてハードロックからプログレへと進んでいったわけです。(今、ちょうどグリーンスレイドの「ベッド・サイド・マナーズ」を聴きながら書いているんですが、この泣きのメロディがたまりません。リマスター&紙ジャケ再発してくれないかなあ……。)単に楽しい音楽として嗜むのが悪いとは思いませんが、その聴き方では音楽と深く接するような楽しみ方はでき難い気がします。対してクリムゾンのような音楽は、けして取っ付きは良くありませんけれども理解しようとする過程が音楽の楽しみ方を色々と教えてくれます。(理解できずに挫折しちゃうリスナーも出るのでしょうか? でもエピタフのような美しい曲は、日本人には文句なく楽しめると思いますけどね。)理想的な出会いかどうかは別にして、それも貴重な体験の仕方ですよね。少なくとも日本のポップス系しか聴いてなかったリスナーは、善し悪しを別にすれば天地がひっくり返るような体験でしょうから……。


 そして、さっそく帰って試聴! 再生! ……(ドキドキ)……(何も聞こえない? )……「故障? あ、そうか音が小さいんだ! 」、と音量を上げ始める……と突如としてあの超有名フレーズが不幸にも超大音量で部屋に響きました(笑)。これが僕とプログレの出会いです。
 camelotのヒロさんのページを見たときに、「あのときの記事を読んでなかったら、プログレにも出会ってなかったし、(音楽を真剣に聞く)という今の自分のスタイルはできてなかった」と思い懐かしく思いつつ、高橋さんには大変感謝しております。
 と同時に今のように毎月、音楽に身を捧げてお金に困ることも無いだろうなあ、と感慨深くさせられました(笑)



いやあ、クリムゾンを気に入ってもらえてホッとします。「あんなのを推薦されたおかげで、オレの音楽人生は真っ暗闇だ」というのでは困りますもんね。音楽でサイフが軽いのはボクも同様です。しかも音楽を嗜むようになると、買うモノがなくても探してしまう習性ができませんか?買うモノがなければ買わなきゃ良いんですけど、それが出来ないと言うか……。それならばいっそ、買うモノがある時の方がマシだったりします。用もないのにCD屋さんを徘徊して、物色するようになったら重症ですよ……。でも、この趣味が人生を豊かにしてくれてもいるわけですしね。


 出会いがクリムゾンだったからなのか、今でも一番好きなアーティストはKINGCRIMSONです。ちなみにクリムゾンの中で私の好きなアルバム(ライブ盤除く)はINTHE COURT OF THE CRIMSON KINGで、好きな曲はREDの STARLESSです。前者はもはや語る余地はないので何も書きません(笑)。で、STARLESSについて少し書かせていただきます。
あの前半のはかなく悲しいサックスとギターの音。あそこにジョンウェットンのヴォーカルが入り、ますます悲しみに満ちていく世界。そしてこのまま永遠に終わらないのかと思わせるかのごとく繰り返され、緊張が張り詰め、どこにもそれを放出できずに暴走しそうな雰囲気を漂わせる中間部分。やがてその緊張はラストにこれでもかと言わんばかりに悲しく、かつ激しくなり、そして静かに終わりを迎える後半部分。今でも初めて聞いたときの訳のわからずに感情が湧き起こったのが忘れられません。こういう感動は言葉にするのは無理なのは頭ではわかっているのですが、それすらも忘れさせる魅力を秘めた曲だと思います。





かつて、クリムゾンを書いた時にも述べましたが、ボクはCD時代になるまでクリムゾンは絶対的に1stで2番目がリザード(3rd)で5thまでが好きでした。当時「暗黒の世界」から以降はよくわからなくて……当時としては相当にヘヴィでしたしね。スターレスもボーカル部は嫌いではないにしても、インストルメンタル部がねぇ……というのが当時の評価でした。しかし90年代になって聴いてみると……良いんですよね。「どうしてこれが聴けなかったの? 」という感じです。80年代クリムゾンはオリジナルアルバムは紙ジャケで購入したのがはじめてで、それまではクリムゾンのコンサート用にベスト盤で聴いていただけだったので、これから勉強させていただきます。

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 こんな長い文章を書くだけ書いて、質問をするのはどうかなと思いましたが聞きたいことがあるので質問します。実は僕はプログレを3年も聞いているのに、あまりプログレを知りません(特にイタリア、北欧系)。一応、UKのプログレバンド(イエス、フロイド等のメジャーバンド)は一通りのアルバム聞いたつもりなのですが……そこで高橋さんのお勧めのイタリア、北欧プログレバンドを教えてください。お願いします。


イタリアですか……今回の紙ジャケ特集で若干触れさせて頂きましたが……。まずイタリアで聴いてもらいたいのは何と言ってもPFMに尽きます。これを聴かずしてユーロロックは語れないというメジャーバンドです。センス・オブ・ワンダーの難波さんもPFMについては一家言持っているほどのPFMフリークでしたよ。PFMの何が良いか? といったら全部なんですけど、特に良いのはクラシカルな楽曲とアレンジのセンスに、当時はまず驚嘆しました。多分、これだけ音楽が溢れている今日でさえ、はじめて聴いたリスナーはそのオリジナリティに驚かされることと思います。
クリムゾンやイエスやジェネシスのフォロワーは世界各地にいますし、時として本家に肉薄するバンドもあるのですがPFMに肉薄するバンドは、ついぞ見たことが……聴いたことがありません。アルゼンチンのバlカマルテがPFMフォロワーとして扱われていた頃は、バカマルテが聴きたくて聴きたくて……。でも聴いてガッカリしたのを今でも覚えています。しかし時間をおいてから聴き直してみるとけして悪くないんですね。余りに期待が多き過ぎたために辛い評価をしてしまったのです。しかし裏を返せばそれほどPFMが凄いバンドであるということなのです。PFMでは「幻の映像」をまずは聴いて下さい。きっと驚かれることと思います。
PFMの次に聴くべきバンドですが、ボクはイタリアのロックの良さは哀愁とむせるほどの情熱的な表現だと思っていて、だから敢えてクエラ・ベッキア・ロッカンダの「歓びの瞬間(2nd)」とジガンティの「テラ・イン・ボッカ」やマクソフォーネの唯一のアルバムを挙げたいと思います。キーボード系がお好きなら、フェスタ・モビーレやルスティケリ・エ・ボルディーニの「オペラ・プリマ」ももの凄いアルバムです。これらのアルバムはプログレッシャーの全ての人に聴いて欲しいのですが……。

 もうひとつのイタリアはナポリに代表される暗の部分のイタリアです。その代表格は何と言ってもオザンナでしょう。クリムゾンと共通する毒々しさと狂気を「パレポリ」の中で体験して下さい。もう1つ、暗部ナポリ派の代表としてはイル・バレット・ディ・ブロンゾの「Y’s」です。狂気と異端的な美がたまりません。どちらも一度はまったら抜け出せませんよ。
北欧は、幅が広いですね。ボクにとってはオランダから旧ソ連辺りまでが範ちゅうに入ります。スカンジナビアだけを取り出すとそれほどでもありませんけど、カイパだとかウィグワムだとかペッカ等……限定され過ぎちゃいますし……。
一般的にはカイパの1stから3rd、トレッティオアリガ・クリゲットの1st辺りが評価の高いシンフォ作となっています。発掘もののダイスもなかなか捨て難い魅力があるようです。ダイスは正規盤の同名作と未発ものとライブが存在していますが、どれも甲乙付けがたいとされています。いずれも、かつてマーキー・レーベルより日本発売されていて何と日本プレスでした。
アンダース・ヘルメルソンもキーボード主体のシンフォ作として長い間幻扱いされていたようですがムゼアより再発をされて入手できるようになりました。フィン・フォレストは北欧のジャズロックとして、かつて「たかみひろし」さんも絶賛されていましたっけ……。アントマリィの2ndはボクのお気に入りのアルバムです。ブリティッシュナイズされたシンフォ作で、インタープレイが聞き物の好作となっています。最近再発されたシンコピィやプログレス2、アチェ等も是非注目していただきたい逸品です。
北欧は実は90年代になってから、ことプログレに関しては非常に活況を呈していてランドベルク以降、アングラガルド、アネクドテン等々、続々と注目バンドが登場していますよね。既に解散してしまったアングラガルドは、プログレッシャーの注目を北欧に向けてくれた最初のバンドだったでしょう。通常のバンド編成にフルート奏者が持ち替えでチェロを演奏するというクラシックを意識した編成は、見事にその意が表現されているようでした。混沌と儚い美しさを併せ持ったサウンドで、北欧のバンドがクリムゾンの精神を継承していることを表明したようなアルバムでした。そして更にアングラガルドにスケール感を追加したようなサウンドを持って登場したバンドがアネクドテンでした。アングラガルドではまだ「クリムゾンの精神を継承した」と思しかったに過ぎなかったサウンドでしたが、アネクドテンでは表現そのものまでがクリムゾン化されたかのようなサウンド……と感じずにはいられません。先のランドベルクと含めて、北欧のプログレはクリムゾンの精神を継承したとリスナー誰しもにも思わせたことでしょう。
更に元カイパのリード・ギタリストであったロイネ・ストルトによって結成されたフラワー・キングやニュー・グローブ・プロジェクト(何と元ガーデン・シェッドのドラマーが参加)やトランス・アトランティック等は、いずれもシンフォニックロックの王道を行ったプログレ作が痛快ですし完成度も絶品です。ペル・リンダーもクリムゾンに傾倒した恐るべき完成度のアルバムを数作リリースして、未だに創作の意欲は薄れていないところが頼もしいです。(人脈的にはアネクドテンとロイネをつないでいるような北欧プログレ界の黒幕的存在とか……。)イシュルドールス・バーネは70年代から活動を続けるプログレバンドで、初期のシンフォ作から後期のクラシカルなサウンド寄りなアルバムまで、いづれの完成度も侮れません。その他、シンカドゥスやホワイト・ウィロウ、コイリー・ホーン等も非常に完成度の高い好作をリリースしてきています。

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 空長い文章に目を通して頂きありがとうございます。これも若さの暴走と思ってください(もはやそんなに若くありませんが……)。それではcamelotがまた面白いゲームを作ってくれて、それがプレイできるのを楽しみにしつつ筆をおきます。

 はい、頑張りますので、ゲームの方もよろしくお願いします。それでは、また。

高橋宏之


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