氏原さん お便りありがとう!

青:氏原さん
黒:ヒロ高橋

これは去年の11月に頂いたお便りです。去年の11月にお便りを頂きながら、ご返事が遅れてしまって申し訳ありませんでした。まあ取り敢えず、遅れても「返事はするんだな!」と、このまじめさに免じて納得して頂けると有り難いんですけど……。

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 先日はなんだか一人よがりで、だらだらと長いメール文を送ってしまいまして、お恥ずかしい次第です。周りにこのような話をできる友人が少ないので、ちょっと思っていたことを書いてしまったのですが。不躾であったことをお詫びいたします。

いえいえ、とんでもありません。プログレッシャーのそれぞれの音楽遍歴について聞くとは、とても興味深いことです。氏原さんだけでなく、これを読みに来てくれている「まだ見ぬ読者」の方々、もしよろしければ是非皆さんの音楽遍歴について語りにきて下さい。


 さてクリムゾン来日公演行ってきました。東京公演初日の10/4は、オープニングがいきなり『レッド』で、私的期待がいきなり一曲目で最高潮に達してしまいました。アルバムの曲順が頭にこびりついているので、あ〜このまま『堕落天使』やってくんないかな〜、という願いは叶わなかったですが、『スラック』『ザ・コンストラクション・オブ・ライト』中心で公演は続き、苦節15年(クリムゾンを実質的に知ってから)にしてようやくそのステージを拝めた感動を味わってまいりました。余談としてアンコール時に1階席は立っていたようですが、自分は2階席だったのでご起立を免れることができたのも好印象のひとつです。ロバート・フリップは本当に座って演奏してましたし、もう若くない僕としてはやっぱり座って見ていたいわけですよ。


そうですか?アンコールを座って見てらしたのですか?アンコールの時に真っ先にスタンディングしたのは、実はボクらでした。いやあ、お恥ずかしい……。しかし残念ながら、ボクらは10月5日のコンサートでした。レッドはオープニングではなかったですね。でも嬉しかったです。スラック発売後のダブルトリオ(1995’10’2)時より、演奏がアトラクティブでロックしてました。前回は、話題作りのため無理矢理「ダブルトリオ」にしていた感じがありましたけど、今回はバンドとしてのまとまりもあり好感が持てましたよね。エスペラントのような大編成のロックも見てみたかった(伊藤政則さんのライナーによると、当時のエスペラントは本当に凄かったそうです)ですけど、インタープレイが多いからかも知れませんがクリムゾンは現在の方が断然格好良かった。


 観客層は幅広く50代位の夫婦連れもいたりして、『クリムゾンキングの宮殿』が世に出た31年前からリアルタイムで聴いている人達であろう、と思うとなんだか嬉しくなってきます。一方十代と見られる若者もいるわけで、冒頭に書いたように、普段の生活ではプログレが話題になることもまずないため音楽の趣味では(若干ですが)日陰者という意識を抱きがちだったので、幾つもの年代を跨った根強いファンが大勢いたことに驚きと嬉しさを感じました。


そうですね。キングクリムゾンはプログレでは最も「日本で受けたバンド」だそうですが、その人気の高さには今更ながら驚かされます。渋谷公会堂のイエスのライブも満杯でしたし、日本で俗に言う「5大プログレバンド」は相変わらずの人気の高さを誇っているように思います。しかし人気の点では比較にならないでしょうが、いつかプログレの部屋でお伝えした「マグマ」や「バンコ」なんかの奇跡的な来日によるライブは感動的でした。ブリティッシュ系よりもラテンの血が入っているためなのか?伝わるものがあってとても素晴らしかったです。(ライブハウス系のハコでのライブだったことで、よりバンドとオーディエンスの一体感が強かったことも「良いライブ」につながった要因なのでしょうけど。)
前回の来日の時ほどではないですが、そういうアーティストたちと比較すると「どこか」クール(冷めた)な感じがしたのは何故なのか……。まあ、それがまたクリムゾンなのかも知れませんね。


 そして遅れ馳せながら、クリムゾンの紙ジャケ盤(とりあえずアイランド〜レッドの4枚)買いました。先般お送りしたメールに邦題についてちょっと書きましたが『暗黒の世界』はタイトルも曲目も和訳されています。ところが喜んでばかりもいられず、KTさんという方の『KING CRIMSON和訳集』というサイトでのコメントをみると、どうも訳詞も邦題も適切でないものがあるとのことで、僕なんかはただ感心しながらそれをよんでいるのですが……。


そうですか!クリムゾンの紙ジャケをお買いになりましたか!この紙ジャケ盤はリマスターに20Bit−K2スーパーコーディングが施されているため、それまでのクリムゾン系CDとは比較にならないほど音の分離度が高くなっています。ボクも「紙ジャケ」ということから「渋々」購入したのですけど、この分離度にはとても満足しています。
キングの宮殿からレッドを比較すると、何故か?アイランドだけ「収録レベルが低い」ようなのですが・・・どうしてなのでしょうね?それ以外、何も文句はありませんし、以前からの繰り返しになりますが、フリップ翁が収集していたと思しきスクラップ集がとても有り難い!その当時の海外の評価などが今更ながらに味わえるなんて……とても嬉しいことです。


 音楽の個人の嗜好は、当然人それぞれだと思います。10代でプログレが好きな人がいれば、50代でもプログレを全く知らない人がいても問題無いですし、ただ自分が好きなものを聴けば良いと思っています。ここである人が初めて聴いた曲を、これはイイと思うか、別になんとも思わないか、という差はどういうわけかはっきり分かれてしまい、これは人(個性)が違えばその反応は様々あって当然と理解できるのですが、同じ人間でも聴く時期によって反応に多少差があるみたいです。何の事は無い自分のことなのですが、リアルタイムで聴けた数少ないプログレでピンクフロイドの『ウォール』についての印象がちょっと複雑です。確か79年頃に発表されたこのアルバムのシングル『アナザー・ブリック・イン・ザ・ウォール・パート2』をラジオで聴いて嫌悪したのを覚えています。当時中学2年の洋楽初心者には全く理解できず、挙句の果てにピンクフロイドと同じジャンルとされる、苦痛に歪む男の顔のアップの薄気味悪いジャケットのアルバム(クリムゾンキングの宮殿のこと)も自分はこの先聴く事は無いだろうと思っていました。


実はボクがこのアルバムを購入したのはまだ中学生だったはず(ムーディーズの童夢等と同じように)で、その時は本当に購入を迷いました。あのインパクト抜群の恐ろしいジャケットのアルバムを買うというのは、なかなかに勇気が要ったのです。多分ミュージックライフとかの評判から購入を決断したのだと思いますけど……。
当時のハードロック派には同書で評論されていた渋谷洋一さんが絶対だったのでしょうけど、ボクの場合は大貫憲章さんでした。多分当時大貫さんがプログレ中心に評論されていたから……なのだと思いますけどね。もう「一聴」で圧倒されました。ボクの場合当時はまだ「21世紀の〜」はけたたまし過ぎてダメでした。(後に大好きになりますけど。)絶対的にお気に入りだったのは「エピタフ」と「クリムゾンキングの宮殿」でしたね。あのアルバムを「もっと良い音で聴きたい」というのが、ボクが「ステレオマニアに走る」大きな原因であることは間違いありません。アルバイトをしながら、ひとつひとつ揃えていったもんです。もちろん、それ以外の多くのプログレ系アルバムもです。


 古くからのプログレ好きの人は、中高生の時分に『クリムゾンキングの宮殿』『狂気』といった名盤を聴いて、はまってしまった人が多いのではないでしょうか。今ではその人達がそのとき受けた衝撃みたいなものが多少理解できているつもりですし、ピンクフロイドも一通り聴いて昔抱いた嫌悪感はすっかり消えています。このように同じ音楽なのに私の印象に時間差がある理由を自分なりに考えてみたのですが、結局自分がものすごくオクテだったからなのか、という結論に行きつきました。誰にでも精神的に不安定で未成熟な思春期があり、そんな揺れ動く時期に上記を含む70年代前半のインパクトのある楽曲を聴けば陶酔してしまうのも必然かなと思います。僕の場合その揺れ動く時期が19を過ぎるまで来なかったわけで(大学の友人に聞かされたスリー・オブ・ア・パーフェクト・ペアーが僕のプログレの発端でした。普通に見れば変り種なのでしょう)、悩みの無い中高生だったんだなーと感心してしまいます。
 何が言いたいかというと、昨今は時間の経過とともに忘れ去られてしまう音楽が多い中で、プログレは受け手の印象も様々ですが、好きになってしまえば幾つになっても忘れない、そんな楽曲をこれからも聴いていくんだ。などと最近思った次第です。



氏原さんが、オクテだなんて……とんでもありません。中高生に「キングの宮殿」や「狂気」にはまった人がいたなんて・・・。少なくとも、当時のボクの周りにはひとりもいませんでした。有り難いことにボクの兄弟が「伝染してくれた」おかげで、ボクはプログレッシャーとして孤独にならずに済んだのです。ボクの当時、中学生で洋楽を聴くだけでも結構「おませ」でした。ましてロックを聴くなんてヤツはクラスに4〜5人ぐらいいたでしょうか?もちろんプログレなんて、とんでもない話です。ボクは信者を広げようと色々なヤツに聴かせましたけどダメでした。高校でビートルズが語れるぐらいがせいぜいでしたね。もう解散しちゃってるのに……。クリームが良いってヤツがいたりしましたけど、どうして現在進行形じゃないんだろうって……不思議でした。そういう人は多分、今思えば……お兄さんやお姉さんのアルバムを渡されたり、ライブラリーを引っぱり出して聴いたりして洋楽を覚えたんじゃないのかなあ……。もしも自分で聴いているのだったらリアルタイムのバンドやアルバムが話題になりますもんね?パープルやツェッペリンぐらいかなあ……リアルタイムっぽく聴かれてたのって……。もちろんボクもPFMのライナーから、過去にさかのぼってジェントル・ジァイアントとか聴いたりもしましたけど、当然現在進行形のバンドも聴いてましたもん。だけど……周りのみんなは何だか、流行っぽく洋楽を聴いていた印象が強かったですね。まあ、色々な聴き方があって良いのですけど……。ボクは性格的に上っ面を舐めるような「たしなみ」は出来ないタイプなんでしょうね。どうも趣味が趣味に終わらないというか……。
中高生では本気でプロボーラーを目指してましたし、国際試合も経験しました。「将来プロになる」って決めてましたもの。ボーリングブームが下火にならなかったら、今ボクはきっとボーリングをやってたと思います。(ファミ通の対決では、ファミ通の代表に負けちゃって「トホホ」でしたけどね。)どうも求道的になっちゃうんです。どうやらプログレッシャーは程度の差はあれ、ボクと同じように求道的な方が多いんじゃないのかなあ……。
 こんな性格が奏功して、こうしてゲーム制作者としてメシが食べられているわけですから、世の中はホントにわかんないもんです。あの頃の趣味とかがなかったら、「今のボクはあり得ない」とホントに思いますもんね。ちょっとまた脱線しちゃいましたけど……そういう経験からいって氏原さんは少しもオクテじゃありません。こうしてプログレを聴いていらっしゃるわけですからね。プログレは一般的に「難解で理屈っぽい」と言われている音楽です。そんな難解で理屈っぽい音楽ですから、結局そんなプログレを好きになれるかどうかは「一生懸命」聴けるかどうかにかかっているんじゃないでしょうか?「音楽はBGM」と思っている人にとってプログレを聴くのは苦痛を伴うみたいですしね。氏原さんは難解な音楽と向き合う「心構え」があるからこそ、プログレが趣味だと言えるわけですから、いつ目覚めようとも関係ないことだと思いますよ。ボクも実際17歳ぐらいからプログレを引退し、90年代に復帰したカムバック組ですし大きなことは言えませんものね。

プログレは難解な音楽……なんて言いましたけど、ボクにとっては全然難解じゃありません。むしろすぐに覚えられてしまう音楽はボクにとって「物足りない」ものなのです。むしろ1度では覚えられないほどの構成を持っている音楽は、苦心して作られた音楽だと思いますし、それこそが芸術性だと思うんです。確かにビートルズは素晴らしいです。親しみ易いメロディでありながら、何度でも聴ける音楽なんて「そうそう」あるものじゃありません。その後の音楽に与えた影響も計り知れないでしょう。確かにそれもまた芸術です。ただボクは、それを認めた上で尚アーティストとしてのポテンシャルと表現力にも惹かれるのです。アルバム「キングの宮殿」のボルテージの高さはどうでしょう?ボクは少なくともそれまで聴いた「どんな音楽」とも似ていない唯一無二の音楽でしたし、それは今でもその通りで変わりません。ビートルズ解散後、ビートルズのフォロワーは沢山出ましたし、似たサウンドはそれなりに表現されましたが、未だ「キングの宮殿」をフォローしたと断言できるアルバムは存在しません。それがスゴイ!それはイエスの「危機」然り、フロイドの「狂気」然り、PFMの「幻の映像」然りです。(ビートルズの「サージェント〜」もボクの中では然りです。)プログレッシャーに復帰した以降でもオザンナの「パレポリ」等は正にそれらに並ぶアルバムでした。そうしたアルバムやアーティストに出会うため、ボクはこれからもプログレを聴いていくことだと思います。

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 僕の中で、いつか聴かなきゃいけないアーティストのひとつだったVDGGですが、これで決心がつきました。それでは。

VDGGの特集は、どうやら随分色々な方に響いたようですね。ボクも反響にはビックリしています。かつてはヴァージンから日本盤も発売されましたし、もっとポピュラーなバンドなのかと思っていたのですが……。ボクはついぞ日本盤を持っていた試しがないものですから、どの程度の評価を受けていたのかわからない面はあったんですけどね。確かに今はアルバムはリリースされるけれども情報が少ない……というよりも、優先順位がついていないというか? 手を出し難い環境にあるのかも知れません。超レア盤が珍重され、マストアイテム的なアルバムが疎んじられるような……そんな環境があるかも知れませんよね。
音楽は個人の価値観次第と言うところはあると思いますけれども、バンダーグラフが後に多くのフォロワーを作っている等を考え併せると、やはりマストアイテムとして欠かせないバンドであると断言できます。バンダーグラフの特集を参考にして……もしよろしければ、まず手始めに「どれか1枚だけ」でも聴いてみられることをボクはお薦めします。

それでは氏原さん、21世紀もどうか良い音楽生活を送られますように。

高橋宏之


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