年末スペシャル「クラシックとの融合」編


 今年も早いもので、師走を迎えてしまいました。ゲーム業界に入ってから、時は「あっ」という間に過ぎますけど、今年もとても時の経つのが早かったなあ・・・。という訳で、今年最後の「プログレの部屋」をお届けしましょう。

 これを読んでいるみなさんって、やっぱりゲーム音楽はお好きなんでしょうか? ボクはダンス系やシャカシャカした音があまり好きじゃないんです。プログレでこだわっているのも「生音」、つまりアコースティックな楽器にこだわっているんです。例外としては70年代初期の楽器で、ハモンドオルガン(レズリー・スピーカーでグルングルン回ったりするのもお気に入り)やチェレスタやソリーナやハープシコード、しかし何と言ってもストリングス・メロトロンですかね。メロトロンの混声合唱も捨てがたいし・・・。とにかく、メロトロンが響き渡ると、もうメロメロトロン・・・何て古いギャグはおいといて・・・。それらに共通するのは何かというと、まず鍵盤楽器であることです。そしてもうひとつ共通しているのは、クラシック系の音楽に適した楽器であることでしょう。

 プログレッシブ・ロックというのは、先進的なロックという意味ですけれども、当時の先進的な音楽の方向性とは何だったのか? というと、ひとつには音楽のジャンルの垣根を取り払うことだったようです。プログレッシブ・ロック以前、音楽のジャンルは完全に区分けされていたようで、それこそポップスとジャズとフォークとロック、またクラシックが同じ土俵に登ることはなかったようです。ところが60年代中期以降、それぞれの音楽は急激に接近を始めたのでした。例えば現在ではジャズロックのジャンルで語られることの多いソフトマシーンというバンドは、その前身時代のワイルドフラワーズ(フラワーというぐらいだからサイケっぽくもあったんでしょうね・・・確かにソフトマシーンの1stアルバムはジャケットも中身もソフトサイケっぽくて、プログレを期待したボクはとてもガッカリした思い出があります)で、既にジャズとロックの融合を試した音楽を演奏していたようですし、それはそのバンドが分裂して出来たもう一方の雄キャラバンというバンドでも、非常に面白い音楽を跡に残しました。(このバンドはむしろ、ポップスとジャズかなあ? アルバム毎に変化しているので一口には言えないんですけど、プログレ上級者には聴き応えがあるようで、その辺の音楽も面白いんです・・・このバンドの「夜毎太る女」というアルバムはオーケストラを使ってクラシック的なアルバムでしたし・・・が、今回はテーマ違いなので、いつかまた・・・。)そのジャズとロックの融合というような図式は、他にも色々な組み合わせで、70年代初頭に大いにイギリスで盛り上がったのです。しかし、ジャンルの融合ということでは、ロックとクラシックの融合という組み合わせが最も、特に日本のプログレマニアをときめかせたのではないでしょうか?

※イーソスと言うバンドの国内版のライナーで伊藤政則氏はグレッグ・レイクの言葉として「60年代後期イギリスのバンドの多くはブルースを基盤とする音楽をやっていた。しかし元々ブルースのルーツはアメリカの黒人音楽だった。ヨーロッパ人としてヨーロッパの音楽をルーツにするもの、いわば、自分自身のルーツにより近いモノとして自然に受け入れたモノが、後にプログレッシブ・ロックと呼ばれる音楽だった。」と、こんな風に記しています。考えてみるとクラシックは、その昔最もヨーロッパ的な音楽だったわけで、プログレッシブ・ロックの王道が「クラシックとの融合」だったのは、自然なことだったのだと思います。そして当時も今も、シンフォニックと飛ばれる「クラシック との融合」のプログレッシブ・ロックを愛するプログレッシャーは、結局ヨーロッパというものに魅せられ、憧憬ている人たちなのかも。

 このクラシックとロックという取り合わせですが、色々な方法論があったようです。例えばクラシックの楽曲をバンドサウンドで再現するというやり方です。これを最も最初期にやったのは後のプログレッシブ・ロックの5大バンドに数えられるELPのリーダー格であるキース・エマーソンが結成したナイスというバンドで、ハモンドオルガンとベースとドラムで徹底的にクラシックを弾き倒していました。当時ボクはナイスの評判からファーストアルバムを購入してしまって失敗した苦い思い出があります。これはナイスが悪いと言うよりは、彼らが定評を得たのは後のアルバムで、ファーストアルバムではなかったというだけの話なのです。(そういう悲劇は当時、日常茶飯事なことでした。)キース・エマーソン関連で「クラシックとして」最も著名で完成度が高いアルバムは、ELP時代の「展覧会の絵」で、クラシック・リスナーからも支持を受けたアルバムだと聞いています。(クラシックに興味があるけど、退屈そうだし・・・と思っている人は、このアルバムから聴いてみると面白いよ。)

 オーケストラと競演して、自分たちなりに「クラシックとの融合」を図ったバンドも少なからずありました。その代表格は何と言っても「ムーディーブルース」でしょう。彼らの実質ファースト・アルバム「サテンの夜」はオーケストラと競演したロックアルバムの中で「最も成功した」アルバムだと断言します。元々のボクのクラシックの原点は映画だったのです。それは「美しき青きドナウ」だとかの一連のそのものズバリの音楽をテーマにした映画でしたし、何と言ってもディズニィの「ファンタジア」なのです。最初に見た「ファンタジア」は小学生の頃だったでしょうか? 映像と音楽の何と素晴らしかったこと・・・。特にボクは「禿げ山の一夜」がお気に入りで、音楽と映像に圧倒されっ放しでした。小学生だったボクは、同曲に本当に心から怖さを感じながらも、その魅力に感動していました。正しく衝撃でした。(この曲は後に多くのロックバンドに取り上げられていて、今思い出せるものではイタリアのニュートロルスというバンドが「アトミックシステム」というアルバムで演奏しています。このアルバムはプログレのアルバムとしても完成度が高く、ボクのお薦めの1枚。最近、キングレコードが再販したのか、ディスクユニオン新宿店が大量に仕入れていました。)映画で使われたクラシックでは他にも、「2001年宇宙の旅」という映画のタイトルに使われた「ツァラトゥストラはかく語りき」というクラシックの曲も素晴らしかったし、印象的な一曲でした。また「地獄の黙示録」という映画では「ワルキューレ」というクラシックの名曲が取り上げられていて、本当に印象的なテーマでした。(最近ではプロレスの藤原組長がテーマに使っていたなあ。)さて横道に逸れてしまいましたが、「サテンの夜」の話でしたね。このアルバムを初めて聞いた時の印象が正に、「ファンタジア」だったのです。アルバムの導入部から徹底してファンタジックな楽曲が、最終曲のテーマ「サテンの夜」まで、リスナーを異次元へと誘ってくれるという楽曲とアレンジとオーケストラとのアンサンブル勝利・・・ということが出来る訳ですが、とにかくビジュアル的な音楽なのです。ある人間の朝から夜までをテーマにして、人生を、宇宙を、音楽でビジュアル化した作品、それが「サテンの夜」なのです。68年の作品ながら、今聴いても全く色あせることのない新鮮な感動を与えてくれます。

 他にもオーケストラの競演で素晴らしいクラシカルな作品は沢山あります。イタリアのニュートロルスの「コンチェルト・グロッソI」と言う作品は、ルイス・エンリケ・バカロフという名作曲家・アレンジャー(映画音楽の世界で、エンリオ・モリコーニ等と共にイタリアを代表する音楽家だそうです)との共同作業によって作られました。このアルバムのA面(そうか、今はCDだからA面もB面もない訳だから、前半部と言うべきか?)全てを使った非常に美しい作品です。(後半部はブルーズ色が強くジャーズィで、しかも即興色が強い部分もあるので、その部分が好き嫌いを分けてしまうかも知れません。)バカロフは他にもプログレバンドと素晴らしい成果を残していて、ボクがPFMの次に好きなイタリアのロックバンド・オザンナと製作した「ミラノ・カリブロ9」というアルバムも素晴らしい。先のアルバムよりもアグレッシブな作品なので、ロック色の強さで勝りますかね・・・。両作品とも当時映画音楽として作られた作品だけあって、リリカルにしてドラマティックなのです。さらにバカロフはRovescio Della Medagliaというバンドと「Contaminazione」という作品で三度オーケストラとの競演を果たしているが、混作品もまた素晴らしい。まず最初にバカロフのロックバンドとの競演作を聴くのであれば、この作品が最もクセがなく楽しめるかも知れないです。

 さて、今回のプログレの部屋は「クラシックとの融合」をテーマにお届けした訳ですが、最後にもう少しだけ説明を付け加えたいと思います。それはクラシックという「ヨーロッパルーツの音楽」を取り込んだクラシック的なロックです。クラシックの楽曲をバンドサウンドにする訳ではなく、オーケストラとの競演でもないのに、クラシカルなロックとして聴かせてくれるロックのことです。それは例えばプログレの5大バンドの中でもジェネシスの音楽やキングクリムゾンの特に初期のアルバムにそれを感じます。彼らの音楽は本当に「オリジナリティに富んでいる」と言えるモノですから、直接的な引用や表現に表してはいないのですが、とにかくヨーロッパ的といえるもので、それがクラシカルに聴こえるのかも知れません。プログレの初心者は絶対通るべき道と言えるでしょう。もっとはっきり、クラシカルなロックをという向きには、少しマニアックになりますがダリル・ウェイ&ウルフやロバート・ジョン・ゴドフリーやレイモンド・ビンセント率いるエスペラントをお薦めしておきましょう。それらは全てブリティッシュ・ロック系のアーティスト(エスペラントの場合は多国籍バンドでリーダーのレイモンドからしてイギリス人じゃないんですけど、音はどう考えてもブリティッシュ)で、共通しているのは、元々クラシック畑の人たちだということです。だから彼らの音楽がクラシカルであるのは付け焼き刃のクラシックではなく、しっかりとしたクラシック教育という土台の上に成り立ってプレイしているということです。彼らのアルバムはどれも高品位で安心してお薦めできる逸品ばかりといえましょう。(ただし今となっては、簡単に手にはいるのはウルフのファーストぐらいというのがチョット残念です。)

 今年最後の「プログレの部屋」、いかがだったでしょう。ボクとしては書きたいことが「まだ山のよう」に残っているのですが、いつまで経っても終わりそうにない感じなので、「クラシックとの融合」というテーマはまた、今後も続編を書いていきたいと思っています。まだ、融合というくくりではジャズもポップスも残っていますし、楽器別という「くくり」でもやっていきたいと思っています。プログレというジャンルは、どうしてもマニアックに向かってしまいそうになるのですけれども、なるべく入門者に「分かり易い」プログレというのを今後も心掛けていきたいと思いますので、来年もご支援をよろしくお願いいたします。今後も意見や要望や感想などがありましたら、ドシドシお待ちしております。(マニアックなテーマだから、ドシドシはムリかな?)

 最後になりますが、「みなさん」が良いお年を迎えられますよう、お祈り申し上げます。


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