九日目、ついに最終日 そして最大最強の災難


さてここまでお付き合いくださいました皆様、お疲れ様です。

インド逃走旅行記、最終章でございます。

困難の数々を乗り越え、ようやくたどり着いた帰国の日。

当時の僕もぐったりしつつも万感の思いのようです。

しかし、最後の最後でこの旅行において最大の災難が襲い掛かってくるのです。

まるで、マンガのように。面白おかしく書いてますが、事実なのですからしょうがない。





チベット難民キャンプで久々に心地よい目覚めをした僕は、朝食をとると、

遊びに行く金もないので早々に空港に向う事にした。

日本へ発つ便はほとんど夜中の便なのだけど、行くアテもないので、しょうがない。

幸い空港側に旅客用の施設があり、そこで出国まですごせそうなので、そこへ向う事にした。

もうインドルピーを使う場所も限られてくるので、ちょいと高めの金額でリキシャに交渉し、

空港に向けて出発した。

もう見慣れたインドの景色が流れていく。オサラバかと思うと名残惜しい。

交差点で頭にターバンを巻き、白いヒゲをたっぷりたくわえたいかにも、という感じのインド人の老人が

話し掛けてきた。小銭を要求されたので、5ルピー硬貨を渡す。

「おまえは、×××か?」とインド式修験者の老人は尋ねてきた。

よく聞き取れなかったので「×××ってなんだ?」と聞くと、

老人は突然上機嫌になってふぁふぁふぁと笑い、僕の肩をポンポン叩き、杖をカツカツやりながら去っていった。

うーむ、夢占いに出てきそうな光景だ。残念ながら、×××はもう覚えてなくて分からず終い。

もしかすると、僕のこれからの運命が見えていたのだろうか。

空港の施設について、リキシャにチップをはずんで手を振ると、僕は施設に入った。

冷房が効いていて嘘のようにキレイだ。もうあの土ぼこりの激しいインドの面影もない。

もうインドとお別れなんだな、と実感した。

まだ飛行機がでるまで10時間くらいある。

カバンの中身をあさって、いらないものを次々にゴミ箱に放り込み、

持ってきたけど全然読む暇のなかった文庫本を読む事にした。

もう飛行機をただ待つだけで何もないし、こんなところまでボッタクリは来ないので

旅行は終ったつもりでいた。


しかし、事件は起きた。


ふと見ると空港警備のおっさん達がゴミ箱を覗き込んでなにか話をしているとおもったら、

トランシーバーで何か話しはじめた。自動小銃をもった軍人達がせわしなくあたりを

走り始めた。物々しい雰囲気があたりをつつむ。

やがてドーベルマンをたくさん連れた軍人がやってきて、僕を見て

「ここは危ないから離れろ」と指示してきた。


え?え? なになに? なにが起こった???


軍人達が遠巻きにゴミ箱を包囲している。

ここらで、僕は何が起こったのかなんとな〜〜〜〜く想像がつき始めていた。

いやな汗が首筋を伝う。


話をさかのぼること、8日前。デリーにつきたてで旅行会社の車に押し込まれてデリー観光を強いられていた時、

市場が開かれていたので無理を言って車からおろしてもらい、ぶらぶら買い食いしたり必要そうな雑貨を

買い込んだのだ。そのうちの一品に小さな卓上目覚し時計があった。

しかし所詮市場のあやしげな店で買った物なので、即日ぶっこわれてしまった。

使えないものだが、なんとなくカバンにいれたままになってた。

それをさっきゴミと一緒にあのゴミ箱に捨てたのだ。


そして、忘れてたがこの時インドは隣国パキスタンと一触即発の戦争状態に入りかけてた。

つまり、こういう式が成り立つ。


戦争直前の臨戦体勢+空港+ゴミ箱にカチカチ言う時計が投げ入れられてるイコール………


事態がわかってきた僕はみるみる血の気が引いていった。


と、その時である。



ガシャッ



ガシャッ





なにか重い金属音を立てて物々しい足音が近づいてきた。

足音の方向を見て僕は気を失いそうになった。

オレンジの対化学兵器用防毒スーツに身を包み、重厚な金属ケースを携え、

防弾強化プラスチックの面がついたヘルメットをかぶった男が軍人達の輪を割って現れた。


爆発物処理班である。


どうもゴミ箱に捨てた安物の時計を時限爆弾かなにかと思われたらしい。

爆発物処理の男は先端に鏡のついた棒をごみ箱にかざして様子を見ている。

解体処理の方針が固まったのか、ゆっくりゴミ箱を横倒しにして

(ほんとうにゆっくりと)ボロ時計を引っ張り出した。

まわりの軍人達が息を飲む。


やめてぇえええそれはタダのボロ時計なのよぉおおおお



もう僕は生きた心地がしなかった。

軍人達は全員時計と爆発物処理班を注視してるが、僕のそばのドーベルマン達は

意味ありげに全員僕の方を見てハッハッと舌を出して息をしている。


見るな!あっちへいけ!シッシッ!


もしあの時計を捨てたのが僕だとバレたら騒乱罪とかで逮捕されたりするんだろうか?

ピリピリしてるからノリでムショにぶち込まれて臭い飯とか食わされるハメになるんだろうか??

もう帰国するだけなのになんだこの展開は!!!

僕はすでに半ベソをかいていた。そして神様に一心に祈っていた。


この状況から救ってくれたら明日からいい子になります!!!


爆発物処理は佳境を迎えていた。爆発物処理班のオレンジスーツの男は万一の失敗を考え、

被爆面積を減らす為に地面に寝転び、長い棒を器用にあやつって地面に転がってる時計を解体していく。

ドーベルマンがなんか僕のところに集まってきている。


やめろって!集まんなばか!!シッシッ!


ドーベルマンの手綱を握っている男はじっと解体作業を見つめていて忠犬達の行動に気づいてない。


静まり返った施設内にクーラーの排気音と時計の解体音だけが響く。



カチャ…



カチャ…



とっさに走っていって、あのボロ時計を蹴り飛ばしたい衝動に駆られた。

貧血を起こしていた。




カチャッ!

時計の裏蓋が取れて、ただの時計だと確認したオレンジスーツの男は時計をガーゼに来るんで、高々と掲げた。

一同から安堵のため息がもれる。そして拍手が起こる。

爆発物処理班が撤収し、軍人達が散って、施設が当初の静けさを取り戻すと、僕はベンチに崩れ落ちた。

ホント、死ぬかと思った、絶対寿命ちぢんだ。間違いない。


そして飛行機の発着の時間までもう何も起きてくれるなよと祈りながら長い長い10時間を過ごし、

ようやく帰国の飛行機へ乗った。本当にながい十日間だった。

いつもマズイと思ってた機内食がやけにおいしく感じられた。

旅は終ったのだ。

放心状態の僕を乗せて飛行機は日本へ向った。



後日談に続く









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